2017年3月27日月曜日

企画展パネルその5 テントで暮らす

企画展のパネルを再現するシリーズ第5回はテントです。伝統的な暮らしはここ十数年で大きく様変わりしています。牧畜民の人びとも、私たちと同じように快適な暮らしを追求しています。

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སྦྲ། ヤク毛のテント 

牧畜生活では、草を求めて季節に応じた移動が必要なため、人びとは移動性に優れたテントで暮らしてきました。かつてはヤクの毛から作った黒テント(ラ)が主流でした。

しかし今日では、大量生産の生地を用いた白テント(リックル)が一般的になっています。ヤク毛のテントに比べて気密性が高く、雨にも強いという利点があるのですが、風通しが悪いので、夏だけ昔ながらの黒いヤク毛のテントを張る人びともいます。


白テントの一部に伝統的なヤク毛の毛織物を用いたテントもあります。こうしたテントはリキャと呼ばれます。


伝統的なヤク毛のテントのつくり方
太くてかたい毛(フツッパ)を縦糸に,柔らかい毛(クル)を横糸にして、テント用の布を織ります。織機は手作りのシンプルなものです。


このようにして織られた細長い織物はレと呼ばれます。幅はおよそ30cmくらいですが、長さは10m以上になります。



レを何枚も縫い合わせて大きな布にします。一つのテントにはこの布を二枚用います。一枚の大きさは8×12mほどです。


テントには天窓もついており、かまどの煙を逃したり、開け閉めすることで光の加減を調整することができます。夏のテントは裾を固定しないように張られており、その上げ下げによって風通しも調整できます。


一般的な大きさのテントでは、中に二本の支柱があります。周囲には革袋に詰めた穀物や燃料、家財道具を並べます。家財道具は最小限で、身軽に移動できることが前提の暮らしです。


テントは畳んで丸めればこんなにコンパクトになります。かつては移動の際には支柱も含めて4〜5頭のヤクで運んだといいます。


黒テントは修繕しながら長く使います。このことをチベット語で「テントを育てる」(ラ・ソワ)といいます。 テントを育てるには、ヤク毛の剪毛に始まって、糸紡ぎ、糸撚り、機織りなどたいへんな手間がかかるため、現在では大半が白テント暮らしになっています。


2000年代以降、草原の生態環境を守るという名目で多くの牧畜民が草原からの立ち退きを迫られました。現在では牧畜をやめて、慣れない町での暮らしを続けている人びとがたくさんいます。





仕事展の展示品 

現地でいただいてきたレ。触れる展示品として大好評でした。
ヒツジの毛織物。牧畜民の女性が腕によりをかけて織ったものです。中央のみ機械織り。テントの中の装飾や袋など、さまざまな用途で用いられます。

現地から借りてきたヤク毛のテントの模型。牧畜の暮らしを手放さざるを得なかった人びとが、子どもたちに伝統の暮らしを伝えようと、こうした模型を手作りしている。