映画『ラサへの歩き方〜祈りの2400km』では太い薪をふんだんに焚べている様子が印象的でしたが、あれは森林に囲まれた地域だからこそできること。森林のほとんどない牧畜地帯では、主な燃料は家畜の糞を加工したものになります。
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ཨོང་བ། 燃料用に乾燥させたヤクの糞
家畜の糞といえば、日本人なら畑に撒く肥料がまず思い浮かぶことでしょう。チベットの牧畜民にとっては糞といえばまずは燃料です。煮炊きをするにも暖をとるにも、家畜の糞は欠かせない焚き物となります。
オンワをつくるには、フチヤを集めて、成形し、乾燥させ、濡れないように保管する、という一連の仕事がありますが、これらは女性の仕事です。
朝は乳しぼりの前にたまったフチヤを片付ける作業がありますが、水分をたっぷり含んでいるフチヤは冷たく、重いのでかなりの重労働です。
フチヤ集めはヤクを山に放った後にも行います。背負籠で、冒頭の写真のような、加工場まで持っていきます。これらのフチヤを手作業で成形します。小さな塊にして乾燥させたものはフツァブルク(冒頭の写真参照)といいます。また、薄くのばして乾燥させたものはコルホクと呼びます。すぐに燃料が必要なときは乾燥に時間のかからないコルホクを使いますが、ふだんはフツァブルクを多く作っています。
オンワは掻き集めて山にして積んでおきます。小山のようになったオンワ置場のことをオンソンといいます。オンワを積んだ上にビニールシートをかぶせ、その上から糞を塗って、多少の雨ならば濡れないようにしています。オンソンから毎日必要な量のオンワを取り出して、利用します。
糞は燃料にするだけでなく、風よけの壁や家畜囲いなどをつくるのにも活用します。最近は見られませんが、かつては肉の貯蔵庫、ソリなどの遊び道具、テーブル、茶碗を置くための高坏などをつくるのにも使われました。臭くないの?という質問がよくありますが、乾燥させたものはほとんどにおいがしません。少し草の香りがします。
ウマの糞は燃料にはせず、建材などとして使うようです。